中国の高級官僚の人たちを始めとして、日本の高度で丁寧な医療を受けるために、訪日する中国人が後を絶たないというニュースを見ました。
中国には、医療機関はあるが、1人の医師が100~数百人/日もの患者を見る状態で、その人数が圧倒的に足りない実態が浮き彫りになっている。
これは、日本にとってチャンスなのか?!
人口減に進むことによって、国内マーケットの規模が縮小することは、経済縮小の一途をたどるしかないという危惧はずっと言われていることです。
それの救世主が中国人の「爆検診」によって救われるのでしょうか。
個人的には、医療が中国に足りないのなら、どんどん提供ををすれば良いと思います。
ただ、裏でお金が動いて、日本人よりも中国人への医療行為が優先されるとうい自体にさえならなければ良いのだと考えます。
niftyニュース「爆買い」の次は「爆検診」! 中国人訪日医療ツアー拡大中
今、増加中の「訪日医療ツーリスト」。日本政府が「国際医療交流」を提唱、医療ツーリズム業者が続々と立ち上げられている。プライベートジェットでボディガード付きでやってくる大富豪もいれば、自己管理に敏感な若いエリートまで顧客はさまざま。今や庶民も医療を求めて日本を訪れるように変化しているという。訪日中国人ツーリストは日本の医療業界の救世主か、それとも従来の日本型福祉を商業化へ舵を切らせる脅威の黒船か? ルポライターの安田峰俊さんがレポートする。
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「脚をいったん曲げて。また伸ばして。はい、そのままバンザイしてください。苦しくありませんか?」
一昔前のガソリンスタンドの洗車機を思わせる、数メートル以上もある巨大な検査装置の内部に横たわる男性に、検査技師が優しく声を掛けた。同行する医療通訳者を通じて中国語に翻訳された言葉を聞き、男性が微笑む。
「ちょっと首が悪いんです。枕を増やしてもらえるとありがたいのですが――」
ここは東京23区内の病院内。中堅規模の医療法人が運営する検査専門のセンターだ。同院で、がんの早期発見検査であるPET-CT検査を受けているのは、中国から来た趙一平氏(仮名、56歳)。ビジネス分野を手がける弁護士で、上海市内の一等地のオフィスビルに4フロアぶち抜きで大手法律事務所を構える。かつては中国側企業の顧問弁護士として伊藤忠や日野自動車との交渉も担当した凄腕だ。
■中国では医師が1日に100人~数百人を診察するケースもざら
「日本で検診を受ける理由ですか? 中国においても、高度な知識と技術を持った医師はいます。設備が整った病院もあります。しかし患者数が多く、医師が1日に100人~数百人を診察するケースもざら。いっぽう日本の医師は驚くほどきめ細かい問診をしてくれます。看護師や検査技師のホスピタリティも、中国とは雲泥の差ですよ」(趙氏)
最近、趙氏のように日本で検診や治療を受ける中国人が増えている。彼らはいわゆる訪日医療ツーリストたちだ。2010年、日本政府は新成長戦略を打ち出すなかで「国際医療交流(外国人患者の受入れ)」を提唱。間もなく様々な医療ツーリズム業者が立ち上げられ、いまや日本の病院側でも外国人受診者を積極的に受け入れる動きを見せる施設が少なくない。
現在まで正確な人数統計はなされていないものの、中国を中心に台湾・ロシアなど各国から、少なくとも年間5万人以上の外国人が、医療を目的に来日していると見られている。
筆者はこの中国人訪日医療ツーリズムについて、 「文藝春秋」2017年 12 月号 (2017年11月10日発売)に寄稿した。本記事では、上記の趙氏のコーディネートもおこなった在日中国人の医療ツーリズム・エージェント「霓虹医療直通車(英語名:Nihon)」代表の陳建氏への取材内容の一部を、インタビュー形式でご紹介してみることにしよう。
ちなみに、「霓虹」は中国語でネオンを意味する。ただ、標準中国語で発音すると「ニィ・ホン」と読むため、近年の中国人の間ではやや親しみを込めて「日本」を呼ぶ際に使われることが多い。陳氏たちのサービス名も、もちろん後者の意味である。
■プライベートジェットで検診に来た大富豪
――どういう経緯で、医療ツーリズムで起業することになったんでしょう?
陳 もともと、在日中国人向けの起業支援の会社をやっていたんですよ。そうしたら、知人を介して「中国の高級官僚の友人が仕事で日本に来る際に、ついでに検診を希望している。日本の病院を紹介してくれないか?」という話があって。
最初は一度きりの病院探しの手伝いのつもりだったのですが、似たような問い合わせがあまりにも多かったので、思い切って事業にしてしまいました。事業化は2012年のことです。
――中国の高級官僚が自由に出国できた胡錦濤政権のころですね。しかし2013年の習近平政権の成立後は、綱紀粛正を理由に高級官僚の出国は禁止されています。
陳 そうなんです。なので、2013年ごろに顧客は官僚から富裕層の民間人にシフトしました。最初はめちゃくちゃお金持ちの方が多かったんですよ。プライベートジェットでやってきて、ボディーガードが5~6人付いていて……みたいな。
――それって、どういう業種の方なんですか?
陳 不動産とか資源関係の企業のトップですね。個人の資産を数十億は持っている方。しかし、2013年当時はそういう超富裕層の方ですら、中国では人間ドックを受ける習慣があまりなかったんです。
――「数十億」って、日本円ですか? 人民元(日本円で数百億円以上)ですか?
■ボディガードが寿司やフルーツを差し入れ
陳 もちろん人民元です。買い物に行くときも、「お店の棚の“ここから、ここまで”」みたいな、ものすごい買い方をする人が多かった。病院でも、ただ検診を受けるだけなのに、ボディーガードたちが寿司やフルーツを差し入れして……。
――外部の食べ物を持ち込んで大丈夫だったんですか。
陳 いや。それでボディーガードの人たちが病院の人に叱られていました(笑)。その日、例の大富豪氏は大腸の内視鏡カメラをやっていたんです。なので、「ボスは前日からずっと何も食べてない」と心配して、差し入れをどっさり。そこは総合病院だったので、他の患者さんからクレームが出ました。
――中国人の訪日客というと、実態を知らない日本人はすぐに「マナー問題」を連想してしまいがちですが、そういうことをする方は多いんですか?
陳 いえ、彼だけでした。むしろ、これまで事業を5年間やってきて、現在は年間1000人くらいのお客様を受け入れていますが、いわゆるマナー問題が表面化したのはこの件だけなんですよね。
――年間1000人ですか。まさか全員プライベートジェットで来るとか?
陳 いや。ここ数年は大富豪のお客様は減っています。むしろ「普通の富裕層」の方や、さらに一般市民層の方が増えていますね。中国国内でも海外医療ツーリズムの存在が認知されるようになって、ちょっとお金に余裕があるくらいの方でも海外に検診に行くようになったし、難病治療を目的に一般市民の方も海外に出るようになった。
■「庶民」でも医療を求めて日本にやってくるようになった
――中国の普通の人が、日本に医療を求めてやってくると。
陳 はい。特に今年に入ってから3つの傾向が出ています。ひとつ目は、検診が目的ではなく病気の治療を目的に来る人が増えたこと。がんのほか、糖尿病など生活習慣病の治療を求める方が増えました。中国の病院で匙を投げられた子どもの難病の治療を望んで、日本に来る方も少なくありません。
ふたつ目は、一般市民の方が特に増えました。周囲の人から借金をしてでも、日本で治療を受けたいという方がいるんです。
――みっつ目は?
陳 年齢層が若くなりました。数年前までは40~50代の方が多かったのですが、いまは平均35歳ぐらい。いま、中国でいちばん成功者のお金持ちが多い層は30~50代ですし、現代の中国では若いエリートほど自己管理に敏感なので、検診に来るんです。
逆に60代以上の高齢者は少ないですね。古い中国で育っている世代なので、「海外で検診や治療を受ける」という発想になかなかならないようです。
――中国人の訪日医療ツーリズムの費用って、Nihonさんだといくらくらいなんですか?
陳 検診と治療を分けて考えなくてはいけません。検診の場合、おおむね日本国内の病院で25万~40万円くらいのコースが一番人気です。そこに、私たちの仲介アレンジ費用が10万~15万円ほど乗る感じでしょうか。
――現代の中国なら、都市部の中産階層であれば出せない金額でもないですね。
陳 はい。2013年ごろに超富裕層の方がたくさん来ていたころは、「とにかくいちばん高いコースにしてほしい」みたいなオーダーも多かったのですが、最近は顧客層が広がったことで正確な商品知識を持つ方が増えて、値段も落ち着いた印象ですね。
――対して、難病の治療の場合は? 日本は国民皆保険の国ですが、外国人の医療ツーリストなら保険は利かないですよね。
陳 そうです。治療の場合は費用がまちまちなのですが、がんの治療に関しては1000万円くらいでしょうか。心臓病の外科手術になりますと700万円くらい。生活習慣病の治療はもっと安くなります。
――中国は社会に医療不信も根強いですから、重病であるほど、たとえ高額の治療費を支払っても海外に行きたがるということでしょうか。
陳 その傾向はありますね。もちろん、中国にもレベルの高い病院はたくさんあるのですが、患者数が非常に多いことが問題です。また、治療費に透明性がないと感じる中国人もいるようです。
■医療ツーリストを積極的に受け入れるアメリカ
――2010年に政府が新成長戦略を提唱した際、日本医師会は当初、外国人の患者や検診者の受け入れに難色を示したと聞いています。取材をしていると、ここ数年で日本側病院の理解もずいぶん進んだように感じますが……。
陳 そうですね。非常に変わりました。
――ただ、2010年から7年が経ちますが、いまだに訪日外国人医療ツーリストの正確な人数がわからない(医療滞在ビザ発給数の統計はあるものの、大部分の医療ツーリストは観光ビザで入国・滞在しているため)など、日本側の体制はまだ発展途上というイメージです。エージェントとしての苦労はありますか。
陳 ええと……。訪日外国人医療ツーリストの受け入れ基準や予約を取るまでのプロセスについて、日本側の各病院の受け入れ体制の標準化が進んでいない点は、業界全体として悩ましい部分ではないかと思います。
もちろん、中国側の検診者や患者も、経済力や教育水準や消費習慣がまちまち。私たちエージェント側としても「中国人のお客さんはこういう人たちだ」と一言で説明がしにくいという問題もあります。私(陳)はもともとIT企業で勤務していたのでどの業務でもなるべく標準化していきたいという考えを持っているのですが、この業界ではなかなか難しい部分もありますね。
――これは行政や医療の業界に限った話ではありませんが、日本と中国のビジネスのスピード感の違いについても、中国人側から見ると歯がゆい部分もあるようです。
陳 ある公的機関に3年前に営業に行って「国際化準備課」という名刺を渡されたのに、いま営業に行っても、ずっと「準備課」のままで何も動いていないとか(笑)。そういうのですかね。
――無意味に組織だけ作って何もしないというのは……。今回、取材したある地方行政機関もそんな感じでした。
陳 リスクに慎重なのは悪いことではないはずですが、スピード感の違いはありますよね。
――中国人の医療ツーリズムの行き先は日本だけではないと思います。他にどういう国が人気なのでしょうか。
陳 アメリカ・ドイツ・スイス・インド・韓国あたりでしょうか。中国国内ではそれぞれの国に対して、得意分野のイメージがあります。がん治療に関しては、やっぱりアメリカ。再生医療になりますとドイツやスイス。韓国は美容整形ですね。インドは不妊症。
日本については、近年は治療目的で来日する方も増えていますが、やはり「検診」のイメージが根強い。たぶん、中国国内の医療ツーリズム業者が、マーケティングの上で各国の特徴を際だたせるためにラベリングした面もあると思います。
――なるほど。
陳 日本の医療機関とアメリカの医療機関を比べると、アメリカの医療機関のほうが積極的に中国に売り込みをおこなっているようです。事務所を中国国内にも置いたり、「出店」ならぬ「出病院」……つまり中国分院を作ったりですね。アメリカの病院はかなりの費用を中国国内向けに投資して、医療ツーリズムの宣伝を行っています。
最近は日本国内の地方行政機関や病院もインバウンドの医療ツーリストの受け入れに積極的な姿勢を示していますが、まだアメリカのような動きは少ないですね。
■福祉か? ビジネスか?
アメリカの医療は高度に商業化されているため、中国国内で積極的に宣伝を打って医療ツーリストの獲得に懸命な姿勢を示す。いっぽう、日本は国民皆保険制度のもとで、医療を「福祉」とみなす考えが、医療界にも厚労省にも根強い。2010年に政府が提唱した新成長戦略は、そんな日本の医療界に大きな転機をもたらすものだったとも言えそうだが……。
訪日中国人医療ツーリストは、日本の医療業界の救世主か。それとも、従来の日本の福祉を商業化へと舵を切らせることになる新たな脅威か? 詳しくは 「文藝春秋」2017年 12 月号 (2017年11月10日発売)の寄稿記事をご覧いただきたい。