敷金と礼金は、引っ越しをして住む際には初期費用の額に大きく左右します。
関東圏では「敷金2~3ヶ月・礼金1〜2ヶ月」が一般的で、仲介手数料や前家賃などを含めると、家賃の5~6ヶ月もかかってしまいます。
敷金と礼金の意味とその中身はなんなのでしょうか?
このコラムでは、敷金と礼金の中身、内容、歴史、敷金を取り返す方法、法改正などについての情報をご紹介致します。
目次
初期費用は非常に高い
引っ越しにかかる費用は、引っ越費用もですが、一番大きいのは引越し先に入る際の初期費用です。
たとは、退去するところへの退去費用もかかります。
単純に家賃十万円のところから、同じ家賃のところへ引っ越す場合には次の費用がかかります。
・退去費用 敷金分 100,000円(ここは可動です)
・敷金 家賃✕2ヶ月分 200,000円
・礼金 家賃✕2ヶ月分 200,000円
・仲介手数料 家賃✕1ヶ月分 108,000円
・鍵取替え費用 20,000円
・火災保険料 20.000円
合計 748,000円
これはあくまで、一例ですが、家賃が100,000円だとすると、大体賃貸住宅にかかる費用はこんなものでしょう。
これに、引っ越し費用がかかります。
この内敷金は退去時には何割か返ってくる可能性はあります。
賃貸物件でかかる費用は非常に高いものだと言えるでしょう。
礼金とはなに?
礼金とは部屋を貸してくれた大家さんに対して、お礼の気持ちを込めてお渡しするお金です。
一説によると、1923年に起きた関東大震災によって多くの家屋が失われ、住宅難の状態が生まれたときに、優先して借家を貸してくれた大家さんに対して、お礼の気持を込めて支払ったのが礼金の始まりだと言われています。
もう一つは、1955年に始まった高度経済成長時代に田舎から大学入学で上京してくる学生の親たちが、アパートの大家さんへ、「息子をよろしくお願いします」という気持ちを込めて、お金を払っていたのが礼金の始まりだという説もあります。
人口が減少して、住宅が余りはじめている今では、全く理解できない慣習ですね。
慣習化された現金を回収する機会を捨てないように、不動産業界が守っているのでしょう。
敷金とはなに?
敷金とは一体なんの費用なのでしょうか?
敷金は、法律で「賃料その他の賃貸借契約上の様々な債務を担保する目的で賃借人が賃貸人に対して交付する停止条件付きの返済債務を伴う金銭※」と定められています。
※民法619条及び判例
つまり、賃借物件の借り主が家賃を滞納する、建物を壊す、汚すなどをすることにより賃貸人へ損害を与えた場合に備えて補填・保全するために事前に預かるお金です。
退去時には部屋を修繕するための費用にあてられ、余った場合は借り主に返却をされます。
国土交通省の「原状回復をめぐるガイドライン」では、賃借人に通常損耗等の修繕負担の義務はなく、入居者の故意、または不注意や過失による毀損、汚損等でなければ(通常損耗ならば)、入居者は修繕の負担義務(原状回復義務)はないという考え方を示しています。
この考え方はこれまでの各種判決などを総合してつくられたガイドラインであり、現在はこれを基礎に敷金精算を行うこととされています。
しかし、不動産会社や家主がこのガイドラインを越えて、通常の使用によって生まれた損摩耗分も請求していて、知識のない借り主は騙されて支払っているというのが実態です。
インターネットの普及により、通常損耗は借り主が負担する義務はないということを知っている人達が増えたため、の通常使用によって生まれた損耗箇所の修繕を大家側は取ろうとし、借り主は払うのを拒むことで揉めるケースが増えています。
大家からすると、通常損耗分を請求して払ってくれる人からはお金を取っちゃたほうが得という考えなのでしょう。
騙したもんがち勝ちで、騙される方が悪いとうスタンスでやっていて、もしクレームになったら交渉しながら譲歩するというやり方をしています。
このような儲け手法を他の業界でやったら、直ぐに社会問題になり、株価が下がる、ユーザーが離れるなどの存亡の危機に陥るでしょう。
例えば自動車メーカーが、5千円のオイルをクルマに入れて、納車時5万円の請求をしていたとしたら、大問題になりそのメーカーはなんらかの行政指導をなどの処分を受けることになると思います。
賃貸不動産業界では、このような「オレオレ詐欺」のような手法が当たり前になっています。
取り敢えず請求を出しておけば何割かの人は完全に騙され、もう何割かの人は請求した額の何割かは払ってくる、もう何割かは徹底的い負担を拒否するという結果になるので騙さない手はないという考え方でやっているわけですね。
あとは関西地方にあるのですが、礼金はゼロ円で敷金から敷引されるというルールがあります。
入居時には、敷金とはどのような扱いになるのかを、きっちりと不動産屋に確認するのが良いでしょう。
120年ぶりの民法改正により敷金はちゃんと戻る!?
2017年4月14日に120年ぶりに民法が改正されました。
「敷金の返還義務」「原状回復の負担割合」が法律で明文化されたのです。
この民法改正法案が通常国会へ提出されたのが2015年3月31日でしたが、審議が長期化し、可決・成立に至ったのがは2017年5月26日で公布は同年6月2日になりました。
施行は十分な周知期間を設けるために「公布から3年以内」とされ、2020年になる見込みです。
敷金に関するルールが不明確だった
これまでは、「敷金」についてのルール、定義は不動産業界の古くからの慣習に則って運用されており、法律ではなにも定められていませんでした。
敷金の定義、敷金返還債務の発生要件、充当関係などの規定はありませんでした。
そのため、退去時にはハウスクリーニング代、クロス張り替え代、畳替え代などという名目で差し引かれ、敷金が全く返ってこないなどのトラブルが多発しています。
平成17年に出された最高裁判例では「敷金は原則借主に返還するもの」という考えになっています。
通常使用によって生まれた汚れ、損耗は家主負担になるとう司法の判断が出ていたのですが、それに従わず敷金を返さない家主・不動産屋が多数いるという実態があります。
それによって、クレームは増えていきました。
国民生活センターへの賃貸住宅の敷金、ならびに原状回復トラブルの相談件数は次になります。
敷金の定義が民法で明確化された
先に述べたように判例では「賃貸借契約は、賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払いを内容とするものであり、賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されている」として、通常損耗については、原状回復義務はないとしていました。
この判例に従い、今回の改正では、賃借人は、経年劣化を含む通常損耗について原状回復する義務はないことを明確化されました(民法621条)。
これを分かりやすく言うと、
・敷金とは家賃などの担保として借り主が大家に渡すお金である。
この定義の明確化によって、大家・不動産屋側の勝手な判断でクリーニング費用に敷金を使うなどというやり方はできなくなります。
敷金の返還義務が明記された
今までは、敷金の定義が法律で明確にされていなかった上に、敷金を返還する義務もありませんでしたが、この改正によってそれがハッキリと明言されました。
敷金を「賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と明確に定義し、「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」は、「賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭債務の額を控除した残額を返還しなければならない」として、敷金の返還義務を規定しました(622条の2)。
簡単に言うと、
・退去時には敷金から債務(家賃の未払い分など)を引いたお金を大家は借り主に返還しなければならない。
家賃の滞納がなければ全額返さなければならないということです。
この法律は新しい考え方でも何でもなく、平成17年に出ている最高裁判決に家主・不動産屋が従わないので、法律でもちゃんと規制しようということで行われる法改正だと言えるでしょう。
言い方を変えると「ボッタクリ抑止法」が作られうということです。
原状回復の負担範囲の明確化
今までは賃借人と賃貸人の原状回復の負担範囲が不明確でした。
原状回復の負担範囲が次のように明確化されます。
13 賃貸借終了後の収去義務及び原状回復義務(民法第616条・第598条関係) 民法第616条(同法第598条の準用)の規律を次のように改めるものとする。 (1) 第34の4(1)及び(2)の規定は、賃貸借について準用する。 (2) 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この(2)において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない
借り主の負担範囲
部屋に入った後に生じた損傷(通常の使用によって生じた汚れや傷を除く)
貸主の負担
経年劣化、通常に使って生じた汚れ、傷。
借り主が普通に生活して生じた汚れ、傷は貸主負担になるので、敷金からその修繕費用を差し引くということはできなくなります。
契約書に特約が置かれている場合は最高裁の判例では、特約が有効になります。
契約書に原状回復の義務範囲が明記されていて、金額も適正であり、借り主がその内容に納得をして記載された特約なら有効です。
但し、消費者契約法に反する特約につていては無効になる可能性があります。
国土交通省が示している、賃貸人と賃借人の修繕負担表は次になります。
敷金をちゃんと返してもらう方法
改正民法の施行は2020年ころなので、その前はまだ従来のやり方がまかり通る状況が続きます。
敷金をちゃんと返して貰うコツをお伝え致します。
退去前の注意点
❐退去前に清掃する
退去時前に徹底的に清掃しましょう。
きれいであればあるほど、クリーニング代を請求されない可能性は高まります。
特にキッチンの周りの油汚れは念入りに掃除しましょう。
❐契約時の規約を守る
これは常識的な話しですが、ペット不可の物件でペットを飼ってしまうと、そのペットによって生じた傷、汚れ、匂いなどは通常損耗とは認められず、賃借人負担になると言われたら反論出来ません。
これは、ペット以外でできた通常損耗までも負担させられる可能性が出てきます。
❐長い期間住んでいる程負担は減るということを知っておく
わりと認識されていない方が多いのですが、長く住むほうが敷金は沢山返ってくるという事実。
長く住んだ方がその分損耗が増えるので、回復費用がかかりその分敷金が返ってこないと思っている方がいますが逆です。
例えば、入居して1年程経過した時点で壁にちょっと傷を作ってしまったとします。
その段階で退去するとその傷を修繕する費用修繕代の5/6の負担を求められます。
しかし、住んでいた年数に比例して、壁紙や床の価値は下がると見なされますので、壁の傷の修復負担は減っていくのです。
国土交通省のガイドラインでは「壁紙の価値は6年が経過すると1円まで落ちる」と規定されています。
不動産屋から来た請求書の明細に壁紙の張替え3万円と記載されていたら1円負担すれば良いのです。
このように長く住めば住むほど、原状回復費用負担は低くなるということを頭に入れて下さい。
原状回復費用の請求書が来てから。
退去すると、全額敷金を返してもらえばよいですが、原状回復費用を差し引かれたり、さらに追加で請求あれた場合の対応を書きます。
❐敷金は自分のものであるという認識を持つ
敷金は自分のお金であるという認識を持ちましょう。
お願いして返してもらうという意識だと、交渉に負けます。
退去したら本来は即返すべきお金です。
❐原状回復費用を請求するには、立証責任は不動産屋・賃貸人にある
相手が原状回復費用を請求してきたときに、その請求内容、請求金額が適切だということを証明する責任は相手にあります。
フローリングの一部が入居時から剥がれていたのに、その修繕費を請求してきたとします。
ここでありがちなのは、相手はもともとは剥がれていなかったと主張し、借り主は前から剥がれていたと主張して行き詰まるというパターンです。
ここで間違ってはならないのは、修繕費を請求するなら、もともとは剥がれていなかったということを不動産屋・賃貸人が証明しなければならないのです。
それが証明できないのにお金の請求をすること事態が問題なのです。
不動産屋:もともとは剥がれていなかった!
借り主:わかりました、もともと剥がれていなかった事実を証明して頂いた段階で、修繕費用をお支払します。
という回答が正解なのです。
❐請求書の明細内訳を出してもらう
まずはこれが大事です。
❐メールでのやり取りをする
出来るだけメールでやり取りをして、最終的に電話・対面で会話しましょう。
メールは証拠能力がありますので、色々と有利になりやすいです。
❐自分側の明細書をつくる
前項で貰った請求の明細内訳を参照しながら、自分としての費用明細表を作りましょう。
経年劣化の考え方は、6年経過すると残存価格が1円になると、国土交通省のガイドラインには書かれています。
減価償却を定額法でやる場合は毎年1/6の価値が減っていく計算になります。
明細を貰えば、その項目ごとに一つ一修繕費残存簿価が適正な請求と言えますので、その金額に書き換えていき、自分の明細を作成しましょう。
但し、清掃を何年も怠ったために生まれた損耗は賃借人に負担になりますので、そこは譲りましょう。
❐前項で自分なりに作成した明細書を相手に提示しましょう。
❐上司、本社の人間と話をする
前項の明細を出してもらちが明かない場合は、その人の上司や本社へ電話して、交渉しましょう。
❐管理会社がだめなら、大家と直接交渉しましょう
❐敷金鑑定士に間に入ってもらうことを検討していると伝える
❐少額訴訟を検討する
以上のことをやれば、ある程度は返金できると思います。
ただ、本当に質の悪い、大家・不動産屋はいるので、ダメな可能性はあるでしょう。
まとめ
民法改正によって敷金を取り返せる可能性、金額は高くなるでしょう。
しかし、まだ施行されていないのと、されてもそれに応じない賃貸人・不動産屋は多いと思いますので、こちらから反論して返却を求めていかないと、法施行後もしばらくはカンタには返してくれないかもしれません。