
NHKの受信契約を拒んだ、東京都の男性の受信料の支払いを争っている裁判の、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は25日、NHKと男性側双方から意見を聞く弁論をが開かれた。
この判決は、年内の見通しであるが、今回は次の3点について解説致します。
重要な3つのポイント
-
- 受信料制度の合憲性
- 受信料の支払いは義務か?
- どの時点で契約が成立するのか?
男性は2011年9月、NHKから受信契約の締結を求める通知書を受け取ったが拒否。NHKが提訴した。
訴訟では「受信設備を設置した者はNHKと受信契約を結ばなければならない」と規定した放送法64条1項の解釈が争われている。
この裁判の争点はなにか?
1,2審での判決。
①放送法は「公共の福祉に適合する」として合憲
②NHKから通知が届いた時点ではなく判決確定時点で契約が成立する
③支払い義務は契約成立時点ではなく受信機の設置時期にさかのぼって生じる
提訴したNHK側の訴えは?
(1)原告にはNHKとの契約義務があり、2011年9月~遡って契約し、その料金支払いを要求する
(2)契約の成立は、NHKが契約通知を行って2週間後に自動的に成立する
(3)未契約者の消滅時効は適応されない。
※民放169条で規定されている請求は5年経過すると時効になり、支払い義務はなくなるが、これは適用されない。
原告側の訴え
(1)日本国民には、憲法で契約の自由が補償されているので、契約をしない自由がある
(2)契約義務があるとしても、民放169条の5年の時効が適用され、契約・支払いは今から5年前までにする
これが、それぞれの訴えなんです。
そして、1審、2審では、NHK側の訴えは(2)のみ却かれ、原告の訴えは全て却かれました。
この裁判の重要なポイント
(1)憲法で補償されている自由意志と放送法のどっちが優先されるか?
(2)民法の時効が適用されるか?
(3)契約成立の要件はどれになるか?
①NHKが契約通知をして1~2週間後に自動的に契約が成立する
②未契約者に対して過去の視聴料として、損害賠償を請求できる権利がある
③裁判を起こし、裁判所の判断によって、契約を強制できる権利がある
これらがこの裁判の重要なポイントです。
これらを1つずつ解説すると
(1)憲法で補償されている自由意志と放送法のどっちが優先されるか?
これは、だれしも疑問に思っていると思うのですが、これだけテレビが多様な使い方をされている時代に、レテビを持っているだけで、NHKとの契約義務があるのか?ということの判断が最高裁から出るのです。
但し、これは私の予想ですが、最高裁はテレビを持っている人はそれだけでNHKの契約義務がある、放送法は合憲である、という1、2審の判決は覆らないでしょう。
憲法の自由意志よりも、NHKという放送局を受信料で育てていくことの方が、公共の福祉の実現に寄与するという理屈なのでしょう。
なので、それを最高裁が覆すとは思えません。
最高裁は、NHKは国民にとってなくてはならない放送局だから、みんなでお金を払って守っていく必要があるという理屈です。
しかし、NHKが国民にとって無くてはならない、放送局ではないのは明らかでしょう。
一部のNHKの番組のファンはいるのでしょうが、国民全体にとって必要でもなんでもありません。
それと、もし放送法が違憲だとの判決をだすとNHKは直ぐにつぶれますし、過去の受信料を返せと受信契約者から訴えられその支払資源は当然ありません。
こんな混乱を最高裁の判決によって生み出すわけにはいかないでしょう。
もう一つ重要な点は、最高裁が大法廷で出している「事案等」の文章には、放送法64条1項の記載がありますが、「テレビ設置者の契約義務」の部分だけを記載し、「NHKを受信する目的ではない場合は契約義務はない」という部分は書いていません。
これは、最高裁としては、「テレビ設置者は絶対的にNHKとの契約義務がある」という放送法をも破る判決を出したいという意図が見えます。
↓最高裁が大法廷で出している「事案等」文書の一部
原文の赤字部分は省略しています。
(*)放送法64条1項放送法64条1項
「協会の放送を受信することの出来る受信設備を設置したものは、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。(以下、略)」
↓放送法64条1項原文
協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であつて、テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。第百二十六条第一項において同じ。)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。
つまり、なにがなんでも「テレビ設置者はNHKとの契約義務がある」とう判決を出すという方針が固まっているのだと思います。
ーーーーーーー今回での最高裁のヒエラルキー
(2)民法の時効が適用されるか?
1、2審では、民法の時効が適用されないという判決が出ています。
これも、不思議な判決です。
なぜNHKとの契約のみ時効が適用されないのか、不思議ですね。
これも私の予想だと、1、2審の判決がそのまま通るのではないかと思います。
下に大物弁護士の「梓澤先生」の時効に関する話の動画を載せます。
これを見ると、明らかに1、2審判決がおかしいのが分かります。
(3)契約成立の要件はどれになるか?
①NHKが契約通知をして1~2週間後に自動的に契約が成立する
NHKをこの裁判をチャンスと捉え、NHKが契約通知を出しただけで、その1~2週間後に契約が成立するという最高裁の判決を手に入れたいのです。
半分ダメ元でやっているのかもしれません。
1、2審では却かれています。
これはさすがに最高裁も却けると思います。
こんなものを認めたら、それこそ自由意志に反すると国民感情に火を付けてしまうでしょう。
②未契約者に対して過去の視聴料として、損害賠償を請求できる権利がある
これも同じく、却かれるでしょう。
③裁判を起こし、裁判所の判断によって、契約を強制できる権利がある
最高裁はこの③番を落とし所とするのではないかと思います。
まとめ
この裁判は、NHKとの受信契約という問題について、日本の最高司法機関がその判断を下すという、あまり話題にはなっていませんが、戦後初めの機会です。
放送法が出来た1950年(昭和25年)は、テレビ放送はNHKだけしかない時代でした。
つまり、「テレビ放送=NHK」という時代に出来た法律なのです。
今や、メディアは、その次代と比べて、多様化しており、その流れは更にどんどん加速しています。
スカパー、BS、You-tube、ニコ生、ブログ、facebookなど、多様なメディアが存在し、その種類も数も増加の一途を辿っています。
テレビ=DVDのモニター、パソコンのモニター、地上波5局、スカパー、民間BS、ゲームのモニター、会議でに利用などたその用途は多岐にわたっています。
この状況のなかで、最高裁は「テレビ=NHK」という70年前の考え方を貫徹しようという極めて常軌を逸した判断を下そうとしています。
時代からあまりにもかけ離れた異常な考え方を元に、国の最高司法機関がその判断を下す裁判になりそうです。
この多様性の時代に、70年近く前にできた古い時代の法律が殆ど変わらずに残っているというのが、あまりにも無理がある姿だと多くの人が思っているのではないでしょうか。
ここ5年間を振り返っても、メディアの在り方の流れが大きく変わっています。
あと5年後を考えてみると、その変化は更に加速するのは、誰しもが予想できるでしょう。
5年後、10年後を想像してみましょう。
そして、その時代でも最高裁は「テレビ=NHK」という理屈をまだ掲げ主張し続けるのでしょう。
NHKはネット同時配信サービスを2019年(平成31年)から開始することを発表しています。
これは更に時代を後退する行為ではないかと思います。
「テレビ=NHK」 → 「映像が映る機器全て=NHK」
その解釈を拡大していくことの計画が、描かれているのです。
NHKは国民にとってなくてはならないインフラである時代は、とうの昔に終わっていて、数あるメディアの内の1つでしかありません。
さらには、テレビ離れが進み、テレビそのものを持たない人が増えている時代です。
NHKは見たい人にだけ見てもらい、契約しない人にはスクランブルを掛ける方式に変えるべきでしょう。